ー コミュニティ主宰者からのご相談 ー
「生徒さんと話したり、講座をつくったり、変化を一緒に喜んだりする時間は本当に好きです。だからこの仕事を続けたいし、もっとたくさんの人へ届けたいと思っています。
ところがスタッフが増えてからは、役割分担、進捗確認、会議、育成、すれ違いの調整まで考えることが増えて、チームのことになると急に自信がなくなります。
誰かに任せると『本当に大丈夫かな』と気になって確認してしまうし、自分で持っていると、今度は生徒さんに向き合ったり、次の企画を考えたりする時間がなくなります。
周りの経営者が『組織づくり』『リーダー育成』を楽しそうに話しているのを見ると、『経営者なら、人をまとめることも得意じゃないといけないのかな』と思ってしまいます。
私は生徒さんに向き合う仕事は好きだけれども、組織づくりは正直苦手です。
こんなままでも事業を続けて、大きくしていけるのでしょうか?それとも、経営者として組織づくりを得意になるしかないのでしょうか?」

ー YELL’s大学 学長 吉野加容子より ー
組織づくりのすべてを、代表自身が得意になる必要はありません。
けれども、「私は苦手」と「この組織にその機能はいらない」は別です。代表が持つこと、一緒に持つこと、任せることを分けて考えてみましょう。
「生徒さんは好き。だけれども、組織づくりは苦手。」
この二つは、矛盾していません。
生徒さん一人ひとりを見ること。
その人に必要な講座を考えること。
変化を一緒に喜ぶこと。
そして、
複数のスタッフへ役割を渡すこと。
判断基準を共有すること。
会議を設計すること。
育成やフィードバックをすること。
これらは、同じ「人と関わる仕事」に見えて、必要になる力が違います。
だから、組織づくりが苦手だからといって、「私は人を大切にできない」「経営者に向いていない」まで結論を広げる必要はありません。
ただし、事業が大きくなれば、組織に必要な仕事そのものをなくすことはできません。
必要なのは「全部できる経営者になること」ではなく、「必要な機能が、誰かによって担われるチームをつくること」です。
まず「組織づくりが苦手」を5つに分けてみる
「私、組織づくりが苦手なんです」
と言っても、その中身は人によって違います。
ここを一つの苦手として扱ってしまうと、何を自分で育て、何を任せればいいのか分からなくなります。
| 「苦手」の中身 | よく起こること | 考えたいこと |
|---|---|---|
| 日常管理が苦手 | 進捗確認や細かな調整で疲れる | 運営を任せられないか |
| 役割設計が苦手 | 誰に何を渡すか決められない | 仕事と判断権を整理できないか |
| 育成が苦手 | 教えても自走せず巻き取ってしまう | 問い・挑戦・振り返りを設計できないか |
| 対話や調整が苦手 | 注意やフィードバックを避けてしまう | 対話の型や支援役を持てないか |
| 任せることが苦手 | 任せても気になって確認してしまう | 判断基準と相談条件を決められないか |
たとえば「任せても結局自分で確認してしまう」という場合は、単に任せることが苦手なのではなく、どこまでスタッフが判断し、どこから代表へ相談するのかが曖昧になっている可能性もあります。
また、「教えているのに自分で考えてくれない」と感じるなら、指示を増やす以外の育て方を考える余地があります。
こうして分けてみると、「組織づくり全部が苦手」ではないことが見えてくる場合があります。
「自分が苦手」と「会社に必要ない」は別
ここが、経営者として大切な分かれ目です。
たとえば、あなたが進捗管理を苦手としているとします。
だからといって、「進捗管理はしなくていい」とはなりません。
会議が苦手でも、必要な情報共有までなくすことはできません。
フィードバックが苦手でも、誰も改善点を伝えないチームでは育成が止まります。
つまり、考えるべき問いは、
「私はこれが得意か?」
だけではなく、
「この機能を、チームの中で誰が担えばいい?」
です。
経営者の仕事は、すべての役割で一番上手になることではありません。
事業に必要な機能を見つけ、それが働く状態をつくること。
そう捉えると、組織づくりの見え方が変わってきます。
代表が持つ・一緒に持つ・任せるに分けてみる
「組織づくりを誰かに任せたい」と思った時、全部を一括りにして渡す必要はありません。
たとえば、次の3つに分けてみます。
| 持ち方 | 例 |
|---|---|
| 代表が関与を持ち続ける | どんな未来をつくりたいか/生徒さんへ何を届けたいか/何を大切にする組織なのか/重要な人や役割に関する判断 |
| 誰かと一緒に持つ | リーダー育成/役割設計/フィードバック/チームの振り返り/判断基準の更新 |
| 任せる | 日程調整/進捗確認/情報整理/会議運営/記録/定型的な運営業務 |
もちろん、どこまで任せるかは事業やチームの状態によって変わります。
大切なのは、「苦手だから全部手放す」でも、「代表だから全部持つ」でもないこと。
自分が関与すべきところと、他の人の力を借りた方がよいところを分けます。
もし「自分がやった方が早い」と仕事を巻き取ってしまうなら、仕事を渡しながらスタッフを育てる考え方も合わせて整理してみてください。
「右腕に全部任せれば解決する」が危ない理由
組織づくりが苦手だと感じると、「組織が得意な右腕を見つけて、全部任せたい」と思うことがあります。
実務を任せること自体はできます。
けれども、代表が組織づくりから完全に離れてしまうと、
効率は上がったけれど、届けたいサービスとズレている。
スタッフは動いているけれど、代表が大切にしていた考え方が薄れている。
チームは回っているけれど、代表自身が違和感を持っている。
ということも起こり得ます。
だから、右腕へ渡したいのは、「私の代わりに全部決めて」ではありません。
「私たちは何を大切にするのか」を共有したうえで、その実現方法を一緒に考えてもらう。
この関係をつくることが重要です。
そのためには、代表の頭の中だけにある考え方を、チームでも使える知恵や判断基準へ変えていくことも必要になります。
実は「生徒さんが好き」は組織づくりにも使える
ここまで読むと、「結局、組織のことも勉強しなきゃいけないのか」と思うかもしれません。
もちろん、新しく学ぶことはあります。
けれども、あなたが生徒さんへ向けてすでにやっていることの中に、組織づくりの材料が隠れていることもあります。
たとえば、生徒さんに対して、
「この人は今、何に困っているんだろう?」と見る。
できていないことだけでなく、できていることを探す。
その人に合った次の一歩を考える。
答えを押しつけず、本人の言葉を聞く。
変化を記録し、次の支援へ活かす。
こうしたことをしているなら、その視点はスタッフ育成にも活かせます。
問題は、その力が「生徒さんには自然と使えているのに、スタッフになると管理や評価へ切り替わってしまう」ことかもしれません。
生徒さんへのこだわりを「チームの判断基準」に翻訳する
組織づくりが苦手な主宰者ほど、ここから始めてみてください。
「私は、生徒さんにどんな体験を届けたいんだろう?」
を言葉にします。
たとえば、「質問しやすい場にしたい」なら、スタッフへ「質問には早く答えて」と指示するだけではありません。
チームで、
生徒さんが「質問しても大丈夫」と感じるのは、どんな時?
私たちの返信で大切にしたいことは何?
答えが分からない時はどうする?
どこまで自分で判断していい?
どんな場合は相談する?
まで考えます。
すると、代表の頭の中にしかなかった「生徒さんへの想い」が、スタッフも使える判断基準へ変わります。
組織づくりとは、人を管理することだけではありません。代表一人が届けていた価値を、チームでも届けられる形へ翻訳することでもあります。
代表の判断基準をチームへ残していくことは、「代表の頭の中」をチームに残すことにもつながります。
成果事例|「私がみんなを管理する」から、チームで届ける形へ
YELL’sの実践の中でも、主宰者が一人で判断や育成を抱えやすい状態から、メンバーそれぞれの力を見直し、役割や相談の流れ、振り返りの方法を整えていったケースがあります。
そこで目指したのは、主宰者がすべてのマネジメントを得意になることではありませんでした。
誰がどんな力を持っているのかを見る。
その力を使える役割を考える。
困った時に相談できる流れをつくる。
実践したことを振り返り、次の関わりへ活かす。
こうして、主宰者一人が「全員を管理する人」であり続けるのではなく、チームにある力を使いながら、届けたい価値をみんなで実現する形へ見直していきました。
組織づくりが得意か苦手かだけで考えるのではなく、「私は何を持ち、どこから仲間の力を借りる?」という問いへ変えることが、チームづくりの入口になります。
一人で抱える状態そのものを見直したい場合は、「一人で背負うリーダー」をやめたチームづくりの事例も参考になります。
HEROコード診断は「組織づくり向き・不向き」を決めるものではない
組織づくりに自信がない時、「私はリーダー向きなのか」「このスタッフはマネジメント向きなのか」と、向き・不向きを知りたくなることがあります。
けれども、HEROコード診断を、役割を固定するためだけに使うものとは捉えていません。
YELL’sでは、一人ひとりの違いを見ながら、本人との対話や次の考動を考える入口として活用しています。
たとえば、
どんな場面では自然と動ける?
どんな仕事では力を使えている?
何を任されると止まりやすい?
今、どんなことへ挑戦してみたい?
その人の力をチームのどこで活かせる?
と考えます。
代表自身についても同じです。
苦手を理由に経営者としての可能性を閉じるのではなく、自分が使える力と、仲間から借りたい力を見つける。
役割設計を考える時にも活用できる視点です。
今夜は「苦手なこと」より「生徒さんにしていること」を書き出してみる
組織づくりが苦手だと思った時ほど、「私は何ができない?」だけを考えないでください。
代わりに、この3つを書いてみます。
① 私は、生徒さんにどんな体験を届けたい?
② そのために、私は普段どんなことをしている?
③ その中で、スタッフにも渡せる判断基準は何?
たとえば、「できていないことより、その人の変化を見る」ということを生徒さんへ自然としているなら、それはスタッフ育成にも使えるかもしれません。
「質問しやすい空気をつくる」ことを大切にしているなら、それをチームの共通ルールにできるかもしれません。
あなたが生徒さんへ届けてきたものの中から、チームづくりを始める。
そう考えると、「苦手な組織づくり」が、自分の仕事とは別物ではなくなっていきます。
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まとめ|組織づくりが苦手なら「全部得意になる」ではなく役割を設計する
生徒さんと関わることは好き。
だけれども、組織づくりは苦手。
だからといって、それだけで経営を諦める必要はありません。
一方で、事業が大きくなれば、
- 役割を決める
- 判断基準を共有する
- 人を育てる
- 進捗を見る
- 対話する
- 振り返る
といった機能は必要になります。
だからこそ、「全部できるようにならなきゃ」ではなく、
「私は何を持つ?何を一緒に持つ?何を任せる?」
へ問いを変えてみてください。
そして、生徒さんに届けたい体験だけは、チームへ言葉にして渡していく。
あなた自身が組織運営のすべてを担わなくても、あなたが届けたかった価値を、チームで届けられる組織をつくることはできます。


この記事の監修|吉野加容子


吉野加容子
YELL’s大学 学長。学術博士。脳科学・学習行動の専門家。
YELL’s大学では、学んで終わるのではなく、自分で問いを持ち、考え、決め、動き、実践を振り返りながら次の考動へつなげていくことを大切にしています。
人材育成においても、「正しい答えを教え続ける」ことだけを育成とは捉えません。
人によって、見えているもの、心が動くもの、止まりやすい場面、得意な役割は違います。
その違いを見ながら、本人が自分で気づき、考え、決断し、小さく実践できる状態をどう育てるかを、YELL’s大学の講義・実践・記録・振り返りの中で扱っています。
この記事では、「組織づくりが苦手」という感覚を経営者としての適性だけで判断せず、代表が持つ役割と仲間の力を借りる役割を分け、生徒さんへ届けたい価値をチームで実現できる状態をどうつくるかという視点から解説しています。
監修:吉野加容子(学術博士/脳科学・学習行動の専門家/YELL’s大学学長)
吉野加容子のプロフィール・活動について詳しく見る


組織づくりが苦手な経営者についてよくある質問
- Q1. 組織づくりが苦手でも経営者を続けられますか?
-
組織づくりのすべてが得意ではないことだけを理由に、経営者を続けられないと決める必要はありません。ただし、「自分が苦手であること」と「組織にその機能が必要ないこと」は分けて考える必要があります。事業が広がり人が増えれば、役割分担、情報共有、判断基準、育成、振り返りなどは必要になります。そこで「全部自分ができるようになる」ことだけを目指すのではなく、何を代表が持つのか、何をリーダーと一緒に持つのか、何を得意な人へ任せるのかを整理します。たとえば日常の進捗管理は任せながら、生徒さんへどんな価値を届けたいのか、チームとして何を大切にするのかには代表が関与を持ち続ける、という方法もあります。経営者として必要なのは、あらゆる仕事で一番上手になることより、事業に必要な機能がチームの中で働く状態をつくることです。
- Q2. 人のマネジメントが苦手なら、右腕に全部任せてもいいですか?
-
日々の運営や進捗確認、会議の進行など、得意な人へ任せられる仕事はあります。ただ、組織に関することをすべて右腕へ渡し、代表が人やチームについてまったく関与しなくなる形には注意が必要です。チームが効率よく動いていても、代表が生徒さんへ届けたかった体験や、事業で大切にしている考え方から少しずつズレる可能性があるからです。そこで「全部任せる」のではなく、代表が関与を持ち続けること、右腕と一緒に考えること、任せることを分けます。たとえば日常運営は任せる。一方、重要な役割を誰へ渡すか、何をチームの判断基準にするか、どんな未来をつくりたいかは一緒に考える。このように、右腕を「自分の代わりに組織を持つ人」にするのではなく、「届けたい未来を共有し、異なる得意を使って一緒に組織をつくる人」として考えることが大切です。
- Q3. 生徒さん対応は好きなのに、スタッフ対応で疲れるのはなぜですか?
-
生徒さんへの支援とスタッフ育成では、関係性や求められる役割が異なるため、同じ「人と関わる仕事」でも負担の感じ方が違うことがあります。生徒さんには「この人が前へ進むには何が必要だろう」と自然に考えられる一方、スタッフになると、期限、品質、役割、責任、評価なども考える必要があります。そのため、相手を見ることより「ちゃんと動いてもらわなければ」という管理へ意識が寄り、疲れやすくなる場合があります。そんな時は、生徒さんへ自然としている関わりを振り返ってみてください。どんな変化を見ているのか、どんな問いを使っているのか、どんな時に待っているのか。その中にはスタッフ育成にも使える視点があります。ただし、スタッフには役割や責任の共有も必要です。生徒さんとまったく同じ接し方にするのではなく、自分がすでに持っている「人を見る力」を、役割や判断基準と組み合わせて使うことがポイントです。
- Q4. 組織づくりで代表が手放さない方がいいことは何ですか?
-
事業の形によって異なるため、すべての会社に共通する絶対的な線引きがあるわけではありません。ただ、少なくとも代表が関与を失わない方がよいのは、「どんな未来をつくりたいのか」「誰にどんな価値を届けたいのか」「チームとして何を大切にするのか」といった方向や基準に関わる部分です。日程調整や進捗管理、会議運営、情報整理などは得意な人へ任せられます。育成や役割設計も、リーダーと一緒に持つことができます。一方、代表自身が大切にしてきた価値まで「組織づくりは苦手だから」と誰かへ丸ごと渡してしまうと、事業の方向と組織の判断が離れていく可能性があります。そこで、実務を手放しても、判断基準は共有する。運営を任せても、未来については対話する。このように「作業を持つこと」と「方向に関与すること」を分けると、代表がすべてを抱えずに組織を育てやすくなります。
- Q5. HEROコード診断は役割分担やチームづくりにどう使えますか?
-
HEROコード診断を「この人はこの仕事向き」「この人はリーダーに不向き」と固定的に決めるためだけに使うものとは捉えていません。YELL’sでは、一人ひとりがどんな場面で自然と動きやすいのか、何に心が動くのか、どんな場面では止まりやすいのかを見ながら、本人との対話や次の考動を考える入口として活用しています。役割分担を考える時も、診断結果だけで配置するのではなく、実際の仕事でどんな力を発揮しているか、本人は何へ挑戦したいか、どんな経験を積むと次へ進めそうかを重ねて見ます。代表自身についても同じです。「私は組織づくりが苦手」で終わらせるのではなく、自分は何なら自然と力を使えるのか、どこで仲間の力を借りたいのかを考える材料にできます。診断を役割の答えにするのではなく、チームで力を活かすための問いを増やすことが大切です。
- Q6. 組織づくりが苦手な経営者は、何から手放せばいいですか?
-
最初から「組織づくり」を丸ごと手放すのではなく、今抱えている仕事を「私が持つ」「誰かと一緒に持つ」「任せる」の3つに分けるところから始めます。たとえば、日程調整、進捗確認、会議の記録、定型的な情報整理などは、他の人へ渡しやすい仕事かもしれません。一方で、「生徒さんへどんな価値を届けたいのか」「チームとして何を大切にするのか」といった方向や判断基準は、代表が関与を持ち続けることが重要です。また、今すぐ完全に任せるのが難しい仕事は、「一緒に持つ」に置くこともできます。大切なのは、苦手なものを一気に捨てることではありません。代表にしかできないことへ時間を使えるように、他の人でも担える仕事から少しずつ役割と判断権を渡していくことです。
- Q7. 組織づくりを任せても、代表の想いが薄れないようにするにはどうすればいいですか?
-
代表の想いを「分かってくれているはず」で終わらせず、スタッフが日常の判断に使える言葉へ変えていくことが大切です。たとえば「生徒さんを大切にしたい」という想いだけでは、人によって行動の解釈が変わります。そこで、「生徒さんが質問しやすい状態とは?」「返信する時に何を大切にする?」「答えが分からない場合はどうする?」「どこまで自分で判断し、どこから相談する?」と具体化します。また、実際に起きた出来事を振り返り、「この判断は私たちが大切にしたいことと合っていた?」「次はどうする?」と基準を更新していきます。代表の想いをそのまま覚えてもらうのではなく、チームが自分たちの仕事の中で使える判断基準へ翻訳していくことで、実務を任せながらも届けたい価値を共有しやすくなります。
「組織づくりが苦手」で終わらせる前に。
紙を3つに分けて、
「私が持つ」
「誰かと一緒に持つ」
「任せる」
と書いてみてください。
そのうえで、今あなたが抱えている組織の仕事を一つずつ置いていきます。
苦手を克服することからではなく、誰の力をどう使えばチームとしてできるのかを考える。
そこから、あなたらしい組織づくりを始めることができます。




























