ー コミュニティ主宰者からのご相談 ー
「この人にはもっとできることがあると思っていて、できれば次のリーダーにもなってほしいスタッフがいます。
今の仕事も丁寧だし、周りの人をよく見ているし、私からすると『本人が思っている以上に、この人には力がある』と感じています。
だから少し難しい仕事を任せたり、『もっと自信を持っていいよ』『あなたならできると思う』と伝えたりしているのですが、本人はあまり乗り気ではありません。
『私はまだそこまでじゃないです』と言われたり、任せてもこちらへ何度も確認が来たりして、結局私が進めることもあります。
最近は、私が期待を伝えるほどプレッシャーになっているのかなとも思います。
けれども何も言わなければ、このまま今の役割で止まってしまいそうで、それも違う気がしています。
私にはその人の可能性が見えているつもりなのに、どう関われば本人自身が『やってみたい』と思えるのでしょうか?育てたい人の心が動く関わり方って、どうやって見つければいいですか?」

ー YELL’s大学 学長 吉野加容子より ー
代表に見えている可能性と、本人の心が動く未来は、同じとは限りません。
「どうしたらやってくれる?」ではなく、「この人は何を見た時に自分から動く?」を発見するところから育成を始めてみましょう。
「この人には、もっとできるはず。」
人を育てていると、本人より先に、その人の可能性が見えることがあります。
周りをよく見ている。
生徒さんから信頼されている。
困っている人へ自然と声をかけている。
仕事も丁寧。
だから代表には、
「次はリーダーをやってほしい」
「もっと大きな仕事を任せたい」
という未来が見える。
ところが、本人へ話してみると反応が薄い。
そこで、さらに熱心に可能性を説明してしまう。
けれども、ここに一つ落とし穴があります。
「代表がその人に進んでほしい未来」と「本人が進みたい未来」は、まだ一致していないかもしれません。
だから必要なのは、期待を弱めることではありません。
期待を、その人自身が考えられる問いへ変えていくことです。
「可能性がある」と「本人がやりたい」は分けて考える
代表から見て、リーダーとしての可能性がある。
これは、とても大切な観察です。
けれども、「できそうだから、やりたいはず」とは限りません。
本人は、
- そもそもリーダーになりたいと思っていない
- リーダーの仕事が何なのか分からない
- 失敗する未来ばかり想像している
- 今の生活との両立が見えない
- 「自分には無理」と考えている
- 別の役割に魅力を感じている
かもしれません。
この状態で「あなたならできるよ」だけを重ねても、本人の中にある疑問への答えにはなっていません。
まずは、
代表が見つけた可能性
と、
本人が選びたい未来
を分けて見る。
ここから始めます。
「そもそも、この人を次のリーダー候補として見ていいのか?」という段階で迷っている場合は、次のリーダー候補を売上や声の大きさだけで決めない7つの見極めポイントから確認してみてください。
期待は「役職」ではなく「見つけた事実」で渡す
本人へ可能性を伝える時、
「あなたはリーダーに向いている」
と結論だけを渡すと、本人にはその理由が見えないことがあります。
そこで、役職の前に事実を渡します。
たとえば、
「この前、困っているメンバーに自分から声をかけていたよね」
「あの時、私が言わなくても全体を見て動いていたよね」
「生徒さんから相談された時、すぐ答えを渡さずに相手の話を聞いていたよね」
というように、実際に見えた行動を伝えます。
そのうえで、
「私はそこに、こんな力があるように見えた。あなた自身はどう思う?」
と本人へ返します。
「あなたはこういう人」と決めるのではなく、「私はこう見えた。あなたはどう?」と渡す。
可能性を本人が自分で発見する余白を残します。
自信がないことだけを理由に「まだリーダーではない」と決めない視点については、自信がないメンバーの中にあるリーダーの可能性を見る事例も参考になります。
心が動かない時は「やりたくない理由」だけを探さない
新しい役割を提案して反応が薄いと、「何が不安なの?」「何が嫌なの?」と、ブレーキばかり聞いてしまうことがあります。
もちろん、それも必要です。
ただ、もう一方も見てみてください。
最近の仕事で、一番面白かったのは何?
気づいたら自分からやっていたことは?
誰かに喜ばれて嬉しかった仕事は?
今よりできるようになったら嬉しいことは?
今の役割から一つだけ広げるなら、何をやってみたい?
「何が嫌か」だけではなく、「何なら心が動くか」を探します。
代表が考えた育成ルートに本人を乗せるのではなく、本人の中にすでにある動きの種から次の経験をつくっていきます。
いきなり「リーダーになる?」と聞かない
リーダーという言葉が大きすぎて、心が止まる人もいます。
本人の頭の中では、
「みんなを引っ張らなければいけない」
「失敗できない」
「全部答えられないといけない」
というイメージになっているかもしれません。
そこで、役職ではなく小さな経験へ分解します。
| いきなり大きく渡す | 小さな経験へ変える |
|---|---|
| チームをまとめてほしい | 次回のミーティングで一つのテーマだけ進行してみる |
| 新人を育ててほしい | 新人の一つの相談について一緒に考えてみる |
| 自分で判断してほしい | 一つのケースだけ、自分ならどうするか案を出してもらう |
| リーダーになってほしい | 今より一つ広い役割を本人と一緒に選ぶ |
小さくやってみると、本人にも新しい情報が生まれます。
「意外と楽しかった」かもしれない。
「ここは苦手だけれど、この部分なら好き」かもしれない。
あるいは、「やっぱり別の役割を伸ばしたい」と分かるかもしれません。
育成とは、代表が用意した正解へ連れていくことだけではなく、本人が自分の次を発見できる経験を増やすことでもあります。
また、仕事だけを渡して判断がすべて代表へ戻っているなら、判断が全部代表へ戻ってくる状態を変える方法もあわせて確認してみてください。
「できた?」ではなく「何が分かった?」まで振り返る
挑戦を渡した後も重要です。
結果だけを見て、「うまくできたね」「ここはもっと改善しよう」で終わると、本人が自分の力を発見できないことがあります。
そこで、
やってみて、どこが一番面白かった?
どこでは自然と動けた?
逆に、どこで止まった?
その時、何を考えていた?
今回、自分について新しく分かったことは?
もう一度やるなら、次は何を変える?
と振り返ります。
挑戦→振り返り→発見→次の挑戦。
この循環があることで、本人が「私はこれならできるかもしれない」「次はここをやってみたい」と自分で次を選びやすくなります。
成果が出ている人を次のリーダーへ育てる時も、最後に必要になるのは本人自身の選択です。本人の「決断」と「覚悟」をどう育てるかも、次の段階としてつながります。
代表の期待が強いほど、本人の「NO」も聞く
ここは、とても大切です。
代表が「この人を絶対に次のリーダーへ育てたい」と思っているほど、本人の言葉を「まだ自信がないだけ」と解釈したくなることがあります。
けれども、本人が本当に望んでいない可能性もあります。
だから、
「今はやりたくない」
「その役割ではないものに挑戦したい」
「今の生活では難しい」
「もう少し経験してから考えたい」
という答えも、育成の大切な情報です。
本人の意思を聞いた結果、代表が想定していたルートと違う道が見つかることもあります。
「心を動かす」は、本人を説得することではありません。
その人自身が何を選びたいのかを、一緒に発見できる関わりをつくることです。
成果事例|「この人をどう動かす?」から「この人はどこで動く?」へ
YELL’sの人材育成の実践でも、代表側の基準だけで「もっとできるはず」と見るのではなく、本人の行動や変化を観察しながら、その人がどんな場面で力を発揮しているのかを見直していくケースがあります。
そこで大切にしているのは、最初から大きな役割を決めて当てはめることではありません。
実際にできている行動を見る。
本人が何を感じているかを聞く。
今より少し広い挑戦をつくる。
実践後に本人と一緒に振り返る。
こうした経験を重ねることで、代表だけが本人の可能性を信じている状態から、本人自身も「自分にはこんな力がある」「次はこれをやってみたい」と考えられる状態へつなげていきます。
人を育てる時に必要なのは、代表の期待をなくすことではありません。
期待を答えとして渡すのではなく、本人が自分の可能性を発見する材料として渡すこと。
そこに、関わり方を変えるヒントがあります。
また、「売れる人・成果を出せる人」は育ったけれど次の人を育てる側へ進まない、という課題なら、「人を育てる人」を育てる5ステップへつなげて考えることができます。
HEROコード診断で探すのは「どう動かすか」ではなく「何で心が動くか」
同じ言葉をかけても、心が動くポイントは人によって違います。
大きな目標を見せると動き出す人もいれば、小さく試せることが見えると動きやすい人もいます。
誰かの役に立てると感じた時に動く人もいれば、自分自身の成長を感じることが次の一歩につながる人もいます。
だから、全員に同じ言葉で「もっと挑戦しよう」「リーダーになろう」と伝えるだけでは届かないことがあります。
HEROコード診断は、一人ひとりの違いを見ながら、本人との対話や次の考動を考える入口として活用しています。
その人を思い通りに動かす方法を探すのではなく、その人自身が何に心を動かし、どこで止まり、どんな経験から次へ進みやすいのかを見る。
育成の関わり方を考える材料になります。
今夜、育てたい一人の「すでにやっていること」を3つ書く
育てたい人の顔を一人、思い浮かべてください。
そして、「もっとこうなってほしい」を書く前に、その人がすでにやっている行動を3つ書いてみます。
誰に、どんな時に声をかけていた?
頼んでいないのにやっていたことは?
どんな仕事の時に表情や言葉が変わった?
何を褒められた時に嬉しそうだった?
以前よりできるようになったことは?
そこから一つ選び、次に会った時に、
「私はここにあなたの力があるように見えたんだけど、自分ではどう思う?」
と聞いてみてください。
答えを教えるところからではなく、本人と一緒に発見するところから育成を始めることができます。
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まとめ|人の心は「動かす」のではなく、動くきっかけを一緒に見つける
育てたい人がいる。
可能性も感じている。
それなのに、本人の心が動かない。
そんな時ほど、「どう言えばやってくれる?」から少し離れてみます。
代わりに、
- すでに何ができている?
- どんな時に自然と動いている?
- 何に心が動いている?
- どこで止まっている?
- 今なら何を試してみたい?
を見ます。
そして、小さく経験し、振り返り、本人自身が自分の力を発見していく。
代表だけが信じている可能性を、本人も自分で選べる未来へ変えていく。
その積み重ねが、「やらされる人」ではなく、自分で次を考えられる人を育てていきます。


この記事の監修|吉野加容子


吉野加容子
YELL’s大学 学長。学術博士。脳科学・学習行動の専門家。
YELL’s大学では、学んで終わるのではなく、自分で問いを持ち、考え、決め、動き、実践を振り返りながら次の考動へつなげていくことを大切にしています。
人材育成においても、「正しい答えを教え続ける」ことだけを育成とは捉えません。
人によって、見えているもの、心が動くもの、止まりやすい場面、得意な役割は違います。
その違いを見ながら、本人が自分で気づき、考え、決断し、小さく実践できる状態をどう育てるかを、YELL’s大学の講義・実践・記録・振り返りの中で扱っています。
この記事では、代表が見つけた可能性を一方的な期待として渡すのではなく、本人の行動を観察し、問い、小さな挑戦と振り返りを重ねながら、その人自身が次に進みたい方向を発見できる育成について解説しています。
監修:吉野加容子(学術博士/脳科学・学習行動の専門家/YELL’s大学学長)
吉野加容子のプロフィール・活動について詳しく見る


育てたい人の心が動かない時によくある質問
- Q1. 期待しているスタッフに「あなたならできる」と伝えても動かないのはなぜですか?
-
代表にとっては励ましでも、本人にとっては「期待に応えなければいけない」というプレッシャーになることがあります。また、代表にはその人の可能性が見えていても、本人自身は「なぜ自分なのか」「何を期待されているのか」「本当にやりたいのか」をまだ整理できていないかもしれません。そこで「あなたならできる」という結論だけではなく、そう感じた具体的な行動を伝えてみます。「この前、困っている人へ自分から声をかけていたよね。私はそこに周りを見る力があるように感じた。自分ではどう思う?」というように、事実と代表の見立てを分けて渡し、本人の言葉を聞きます。さらに、その役割をやりたいかどうかも確認します。期待を弱める必要はありません。代表の期待を本人への答えにするのではなく、本人が自分の力や次の可能性を考えるための材料として渡すことが大切です。
- Q2. リーダーになりたくないと言うスタッフにも、挑戦させた方がいいですか?
-
本人が「リーダーになりたくない」と話している場合、まずその言葉を「自信がないだけ」と決めつけず、何を意味しているのかを聞くことが大切です。リーダーという役割そのものを望んでいないのか、今は生活との両立が難しいのか、責任の大きさが不安なのか、本人が想像しているリーダー像が重すぎるのかによって関わり方は変わります。そのうえで本人が興味を持つなら、「リーダーになるか、ならないか」の二択ではなく、小さな経験を提案できます。たとえば一度だけ会議を進行する、新しいメンバーの相談に一緒に乗る、一つの企画だけ判断を任せるなどです。経験した結果、「やってみたい」と思う場合もあれば、別の得意を伸ばしたいと分かる場合もあります。育成は特定の役職へ進ませることだけではありません。本人が自分の力と希望を知り、納得して次を選べる状態を育てることも重要です。
- Q3. 本人のやる気を引き出す質問には、どんなものがありますか?
-
全員のやる気を必ず引き出せる一つの質問があるわけではありません。だからこそ、本人の中にある情報を一緒に探す質問を使います。たとえば「最近の仕事で一番面白かったことは?」「頼まれていないのに自分からやったことは?」「誰かに喜ばれて嬉しかったことは?」「今よりできるようになったら嬉しいことは?」「一つだけ新しいことを試すなら何をやってみたい?」などです。また、動けない時には「何が不安?」だけで終わらず、「何が分かれば一歩進めそう?」「どこまでなら試せそう?」と小さくします。重要なのは、質問を使って代表が望む答えへ誘導しないことです。本人の答えが想定と違っても、それを育成の情報として受け取ります。やる気を外から注入するというより、その人が何に心を動かし、どんな条件なら考動しやすいのかを一緒に発見するために質問を使います。
- Q4. 育てたい人が失敗を怖がって、新しい役割を引き受けてくれません。どうすればいいですか?
-
失敗への不安が強い人に、最初から大きな役割を渡すと、「できるか・できないか」の判断になりやすくなります。そこで、役職ではなく経験へ分解します。たとえば「新人育成を任せる」ではなく「次の新人面談に一緒に入り、一つの質問を担当してみる」、「会議を任せる」ではなく「次回の一テーマだけ進行してみる」というように、小さく試せる形にします。そして終わった後に「成功した?」だけではなく、「どこは自然にできた?」「どこで止まった?」「次は何を変えたい?」と振り返ります。こうすると、失敗を避けるための挑戦ではなく、自分について情報を増やすための実践に変えやすくなります。また、不安を本人の性格だけにせず、役割や判断基準が曖昧ではないか、困った時に相談できる相手がいるかも確認してください。挑戦できる環境側の設計も、育成では重要です。
- Q5. HEROコード診断は、スタッフのやる気を引き出すために使えますか?
-
HEROコード診断を、スタッフを思い通りに動かすための操作方法として使うものとは捉えていません。YELL’sでは、一人ひとりの違いを見ながら、本人との対話や次の考動を考える入口として活用しています。同じ役割を渡されても、何に心が動くのか、どんな時に止まりやすいのか、どんな経験を成長として感じるのかは人によって違います。そこで診断結果だけを見るのではなく、日々の行動や本人の言葉と重ねながら、「どんな時には自分から動いていた?」「何を大切にしていた?」「どこで止まった?」「次は何を試したい?」と対話します。大切なのは、代表が本人のスイッチを押して動かすことではありません。本人自身が自分の動き方や止まり方に気づき、自分で次の一歩を選べる状態へつなげることです。そのための対話材料の一つとして、チーム育成にも活用できます。
- Q6. 本人が「今はやりたくない」と言ったら、可能性があっても任せない方がいいですか?
-
「今はやりたくない」という言葉が出た時は、そのまま無視して役割を渡すのではなく、まず何を意味しているのかを確認することが大切です。役割そのものに興味がないのか、今のタイミングでは難しいのか、大きすぎて怖いのか、別の役割なら挑戦したいのかによって次の関わりは変わります。たとえば「リーダーはやりたくないけれど、新人の相談には乗ってみたい」という場合もあります。そこで「どの部分なら興味がある?」「小さく試すなら何ならできそう?」と聞き、本人が希望するなら小さな経験をつくります。一方、話したうえでも本人がその方向を望んでいないなら、その意思を尊重し、同じ力を別の役割で活かせないかを考えます。可能性があることは、その役割を引き受ける義務があるという意味ではありません。本人の選択を残したまま、可能性を使える場所を一緒に探すことが大切です。
- Q7. スタッフの可能性を信じることと、期待を押しつけることの違いは何ですか?
-
可能性を信じることは、実際に見えた行動や強みを一つの仮説として本人へ伝え、挑戦する機会をつくりながら「あなたはどうしたい?」と本人の選択を残すことです。一方、期待を押しつける状態では、代表が描いた未来が最初から正解になり、「やりたくない」という本人の言葉を「まだ自信がないだけ」「説得すれば変わる」と扱ってしまいやすくなります。一つの確認ポイントは、本人が「NO」と言える余白があるかどうかです。また、代表自身が「私はこう見えているけれど、本人には何が見えている?」と好奇心を持てているかも大切です。信じることは未来を代わりに決めることではありません。見えている可能性を渡し、本人の考えを聞き、小さく経験しながら、本人自身が進みたい方向を選べる状態をつくることです。
明日、その人へ「もっと頑張って」と言う前に。
一つだけ、その人がすでにしている行動を見つけてみてください。
そして、
「私はここにあなたの力があるように見えた。自分ではどう思う?」
と聞いてみる。
「どうしたらこの人を動かせる?」から、「この人は何に心を動かす?」へ。
問いが変わると、育成の関わり方も変わり始めます。




























