ー コミュニティ主宰者からのご相談 ー
「わたしの『普通』がスタッフに伝わりません。
感覚の違いはどう埋めますか?」

ー YELL’s大学 学長 吉野加容子より ー
代表の「普通」は、これまで積み重ねてきた経験から生まれた判断です。
「なぜ分からないの?」ではなく、「私は何を見て、どう判断している?」まで言葉にすると、感覚はスタッフも使える判断基準へ変えられます。
「ここって、言われなくても気づくところじゃない?」
チームを育てていると、こんな瞬間がありませんか?
お客様への連絡が少し遅い。
企画の詰めが甘い。
会議の準備が足りない。
困っている人がいるのに声をかけない。
次に必要になることを先回りしていない。
代表からすると、すぐ気づくことです。
だから思います。
「どうしてここに気づかないんだろう?」
「普通に考えたら分かるはずなのに。」
そして何度か伝える。
その時は直る。
ところが違う場面になると、また同じようなことが起きる。
ここで疑いたいのは、スタッフの能力だけではありません。
代表にとって「普通」になりすぎて、判断の途中が言葉になっていない可能性です。
こんなお悩みはありませんか?
- 「そこまで説明しないと分からないの?」と思うことが増えた。
- スタッフと仕事の基準が違うように感じる。
- 何度伝えても、似た場面でまた同じことが起きる。
- 自分なら自然に気づけることを、スタッフが見落とす。
- 「もう少し考えて動いてほしい」と感じる。
- 細かく指示すると指示待ちになりそうで困っている。
- 自分の感覚をどう説明したらいいか分からない。
- スタッフによって仕事の質にばらつきがある。
- 次のリーダーには、自分がいなくても判断してほしい。
- 代表の経験を次の人へ引き継げる状態にしたい。
この記事でわかること
- なぜ代表の「普通」はスタッフに伝わりにくいのか。
- 「感覚が違う」と「能力がない」を分ける方法。
- 代表が無意識に見ている判断材料を見つける方法。
- 答えではなく判断基準を渡す方法。
- スタッフ自身の言葉へ置き換えてもらう意味。
- 代表と違う判断が出た時の育て方。
- 感覚の違いを埋める5ステップ。
先にこの記事の結論
代表とスタッフの「普通」を完全に同じにする必要はありません。
必要なのは、仕事を進める上で共有したい判断基準を見つけることです。
代表の中では、
この状況を見た。
↓
過去の経験と比べた。
↓
このままだと問題になると予測した。
↓
だから今動いた。
という判断が、一瞬で行われていることがあります。
長く経験しているからこそ、この途中が見えなくなります。
そしてスタッフには、最後の、
「ここは先に連絡しておいて」
だけが渡されます。
これでは「何をするか」は覚えられても、別の場面で「なぜそうするか」を使いにくくなります。
代表の「普通」を伝えるとは、代表と同じ感覚にすることではなく、判断の途中を共有することです。


あなたの「普通」は、これまでの経験からできている
たとえば、お客様から一通のメッセージが届いたとします。
代表は文章を見ただけで、
「これは早めに返した方がいい。」
と感じる。
スタッフは、
「通常の問い合わせだから明日でも大丈夫。」
と考える。
この時、代表には見えていて、スタッフにはまだ見えていないものがあるかもしれません。
言葉のニュアンス。
これまでのお客様との関係。
似たケースで起きたこと。
返信が遅れた時のリスク。
相手が今求めていそうなこと。
代表は、それらを何度も経験してきています。
だから、考えている自覚すらないまま判断できます。
「普通なのにできない」のではなく、「代表の普通をつくった経験を、スタッフはまだ持っていない」ことがあります。
「なんで気づかないの?」では、見る場所は伝わらない
スタッフが見落とした時に、
「もっと周りを見て。」
「もう少し先のことまで考えて。」
「お客様目線になって。」
と伝えることがあります。
方向としては間違っていなくても、スタッフ側には、
「具体的に何を見ればいい?」
が残ります。
そこで、代表自身へ問いを戻してみます。
私は、何を見て違和感を持った?
どの情報を見て急いだ?
何と何を比べた?
何が起きると予測した?
何を一番守ろうとした?
ここまで言葉にすると、
「気を利かせて」
が、
「この3つを確認して、条件に当てはまったら先に相談しよう」
という使える基準へ変わっていきます。
感覚を共有する時は「比較」が役に立つ
代表の感覚を説明しようとしても、言葉だけでは難しいことがあります。
そんな時は、二つのケースを比べます。
たとえば、
「この問い合わせは今日返す。一方で、こちらは明日でもいい。何が違うと思う?」
と聞きます。
あるいは、
この企画案は進めたい。
こちらは一度止めたい。
この報告はすぐ欲しい。
こちらは週末でいい。
という二つを並べます。
YELL’sの学びでも、情報を集めるだけではなく、比較し、違いを見つけ、自分の言葉へ置き換えていくことを大切にしています。
人材育成にも置き換えられます。
答えを覚えてもらうより、「この二つは何が違う?」を一緒に考える。
すると、代表だけが持っていた感覚の中から判断軸を発見しやすくなります。
代表の言葉を、そのまま暗記させない
代表が判断基準を言葉にできたら、次にスタッフへ復唱してもらう。
それだけで終わらせないことも大切です。
たとえば、
「じゃあ、今の話をあなたの言葉で言うとどういうこと?」
と聞いてみます。
さらに、
「別の場面なら、どこで使えそう?」
まで聞きます。
たとえば代表が、
「お客様が不安になりそうな時は先回りする」
と伝えたとしても、スタッフ自身の中では、
「相手が次に迷いそうなことを想像して、必要な情報を先に渡すということですね」
と違う言葉になるかもしれません。
それで構いません。
自分の言葉で説明でき、違うケースへ使えるところまで進むと、代表の「普通」が本人の判断材料になり始めます。
「わたしと同じ人」を育てようとすると苦しくなる
感覚の違いが気になるほど、
「もっと私みたいに考えてほしい。」
と思うことがあります。
けれども、代表とスタッフには違う強みがあります。
ある人は、人の表情の変化へすぐ気づく。
ある人は、数字の違和感へすぐ気づく。
ある人は、細かな抜け漏れへ気づく。
ある人は、場全体の空気を見られる。
得意な見方は同じではありません。
YELL’sでHEROコード診断を活用する時も、相手を育成者と同じタイプへ近づけるのではなく、その人が持つ力をどの場面で発揮してもらうかという視点を大切にします。
共有したいのは「あなたも私になって」ではなく、「このチームでは、こういう時にこれを大切に判断しよう」です。
「普通が違う」を埋める5ステップ
まず、スタッフを直す前に具体的な一場面を記録します。
何が起きた?
自分は何に気づいた?
スタッフはどう動いた?
何が違った?
「主体性がない」のような大きな評価ではなく、事実を小さく切り取ります。
感覚の違いは、具体的な一場面まで戻ると研究できます。
次に、自分の頭の中を分解します。
何を見た?
何と比べた?
何を予測した?
何を大切にした?
だから何をした?
を書き出します。
「普通だから」ではなく、判断の材料まで言葉にします。
正解を一方的に説明するだけではなく、似た二つのケースを比べます。
なぜ今回は急ぐ?
前回と何が違う?
どの情報が判断を変えた?
とスタッフにも考えてもらいます。
「違い」を発見すると、次のケースにも使える判断軸が見つかりやすくなります。
説明した後に、
「今の判断基準を、自分の言葉で言うと?」
と聞きます。
さらに、
「次にどんな場面で使えそう?」
まで考えてもらいます。
代表の言葉を覚えることではなく、本人が使える知恵へ変えることがゴールです。
判断基準を教えたら、次に似た場面が来た時に本人へ考えてもらいます。
今何が起きている?
何を見る?
何を優先する?
あなたならどうする?
と問いを渡します。
結果が代表と違っても、すぐ間違いにせず、判断の過程を振り返ります。
言語化 → 実践 → 振り返りを繰り返すことで、代表の感覚がチームの判断力へ変わっていきます。
判断が違った時こそ「何を見た?」を聞く
判断基準を共有しても、スタッフが代表と違う結論を出すことはあります。
その時、
「違うよ。こうして。」
だけで終わると、再び答えを覚える育成へ戻ります。
代わりに、
何を見てそう考えた?
何を一番優先した?
見えていなかった情報はある?
私の判断と何が違う?
次に同じことが起きたら何を見る?
と振り返ります。
すると代表側にも、
「そうか。私はここを重要視していたんだ。」
という新しい発見が出ることがあります。
人を育てることは、代表自身の「当たり前」を研究することでもあります。
「全部同じ」にするより、絶対に共有する基準を決める
代表とスタッフの細かな感覚まで全部そろえようとすると、お互いに苦しくなります。
そこで、判断基準を二つに分けます。
絶対に共有するもの。
そして、
本人に任せるもの。
たとえば、
お客様との約束。
チームとして大切にする価値観。
安全や信頼に関わる基準。
代表へ相談する条件。
は共有する。
一方で、
仕事の進め方。
伝える言葉。
資料のつくり方。
本人の得意を活かした工夫。
には余白を残せるかもしれません。
「私と同じ感覚」ではなく、「同じ未来へ進むための共通基準」をつくる。
それが、違う人同士でチームをつくる方法です。
関連記事|代表の「当たり前」をチームの力へ変える
YELL’sが考える「違いを活かす人材育成」
YELL’sが目指しているのは、全員を代表と同じ考え方へそろえることではありません。
人によって、心が動く場面、止まりやすい場面、得意な役割、物事を見る視点は違います。
その違いを消すのではなく、
「この人には、どんな力を発揮してもらえるだろう?」
という視点で役割や挑戦を考えます。
一方で、チームとして守りたい未来や判断基準は言葉にして共有する。
違う強みを持つ人が、同じ答えではなく、同じ未来へ向かって自分で考動できる状態を育てていきます。
まとめ|「なんで分からない?」は、判断基準を発見するサイン
スタッフを見て、
「普通、ここに気づくでしょう。」
と思った時。
その瞬間を、人材育成の材料にしてみてください。
まず、
「私は何を見ていたから、これに気づけた?」
と自分へ問いかけます。
そして、
何を見た?
何と比べた?
何を予測した?
何を守ろうとした?
だからどう判断した?
を言葉にします。
次にスタッフへ答えを渡すだけではなく、二つのケースを比べ、一緒に違いを探し、本人自身の言葉へ置き換えてもらいます。
代表の「普通」は、言葉にできればチームの財産になります。
そして、全員を代表と同じ人へ変える必要もありません。
共有したい判断基準を渡した上で、それぞれの違う強みを活かす。
それが、代表一人の感覚で回るチームから、一人ひとりが自分で考えて判断できるチームへ変わる一歩です。


HEROコード診断の開発・監修
HEROコード診断では、一人ひとりの考動を進めやすくするアクセルと、止まりやすくするブレーキを見ながら、その人がどんな役割や関わり方で力を発揮しやすいのかを考えていきます。


チームづくりでも、代表の「普通」に全員を合わせるのではなく、一人ひとりの違いを理解しながら、組織として共有したい判断基準や未来を言葉にし、自分で考え、決め、動ける人を育てていきます。
監修:吉野加容子(学術博士/脳科学・学習行動の専門家/YELL’s大学学長)
YELL’s大学 学長・吉野加容子について詳しく見る


「わたしの普通」が伝わらない時のFAQ
- Q1. 「そこまで説明しないと分からないの?」と思うのは、求めすぎなのでしょうか?
-
求めている水準そのものが高すぎるとは限りません。まず確認したいのは、その水準に到達するための判断材料まで共有できているかです。代表は長い経験の中で、どこを見るか、何を危険だと感じるか、何を優先するかを何度も学んできています。そのため今では一瞬で判断でき、「普通に考えれば分かる」と感じやすくなります。一方、スタッフが同じ経験をしていなければ、同じ場面を見ても注目する場所が違います。「もっと気を利かせて」と伝えるより、「私はこの言葉を見て、お客様が不安になっている可能性を考えた。だから早めに連絡した」のように、観察したことと判断をつなげて伝えてみてください。その後に「あなたは何を見ていた?」「次に似た場面なら何を見る?」と一緒に振り返ります。求める基準を下げるか上げるかの前に、代表の中で当たり前になっている判断過程を見える形にしているかを確認することが大切です。
- Q2. 自分が何を見て判断しているのか、代表自身もうまく説明できません。
-
最初からきれいなマニュアルにしようとせず、実際に「なんでここに気づかないんだろう」と感じた一件から始めてください。その場面で、自分が最初に何を見たのかを思い出します。文章、表情、数字、時間、過去のケースなど、何かきっかけがあるはずです。次に「何と比べた?」「このままだと何が起きると思った?」「何を一番守りたかった?」と問いを重ねます。たとえば「返信が遅いと思った」だけだったものが、「いつもより不安を感じる言葉が増えていた」「以前、同じ状態で対応が遅れて相手を不安にさせた経験があった」と分解できる場合があります。代表自身が説明できないのは、能力がないからではなく、何度も使ってきた判断が自動化している可能性があります。一件ずつ言葉にし、似たケースと違うケースを比べることで、自分でも気づいていなかった判断基準を発見できます。
- Q3. 判断基準を細かく決めると、逆にスタッフがマニュアル人間になりませんか?
-
判断基準を共有することと、すべての行動を細かく指定することは違います。マニュアル化しすぎると、「このケースは書いていないので分かりません」という状態になる可能性があります。一方、判断基準は「何を大切にして考えるか」を共有するものです。たとえば「この文章には24時間以内に返信する」とケースごとの答えだけを決めるのではなく、「相手が不安な状態を長く残さない」「重要な約束や信頼に関わるものを優先する」といった軸を共有します。その上で、実際のケースについて「今回はこの基準をどう使う?」と本人に考えてもらいます。また、「絶対に守るもの」と「本人が工夫してよいもの」を分けることも有効です。チームの価値観や安全、顧客との約束は共有し、進め方や表現には余白を残す。判断基準はスタッフの思考を止めるためではなく、代表がいなくても自分の頭で考える時に使える材料として渡すことが大切です。
- Q4. スタッフの考えが自分と違う時、どこまで認めればいいのでしょうか?
-
まず「代表と違う」と「チームとして守る基準から外れている」を分けます。お客様との約束、安全性、法律やルール、チームが大切にすると決めた価値観などを外している場合は修正が必要です。一方、それらを守った上で方法や順番が代表と違うだけなら、すぐ直す前に理由を聞いてみてください。「何を見てそう決めた?」「何を優先した?」「どんな結果を想定した?」と確認します。代表にはなかった合理的な考え方が見つかることもありますし、不足している情報が明確になる場合もあります。次世代リーダーを育てたいのであれば、代表の正解を当て続ける人を育てるだけでは足りません。共通の判断基準を使いながら、自分の強みや視点で答えを出せる余白も必要です。「私ならこうする」と「組織としてここは守る」を分けると、どこまで任せるか判断しやすくなります。
- Q5. 今日から感覚の違いを埋めるために、一つだけ何をすればいいですか?
-
今日一つだけするなら、「なんでここに気づかないんだろう」と思った瞬間を一件だけメモしてください。そしてスタッフへ伝える前に、「私は何を見て、この判断になった?」を三分ほど書き出します。見た情報、過去と比べた違い、このままだと起こると思ったこと、一番守りたかったものを言葉にします。その後スタッフへ「こうしてほしい」と答えだけを渡すのではなく、「私はここを見てこう考えた。あなたは何を見ていた?」と会話します。さらに「次に似たことが起きたら、何を確認したらよさそう?」と本人自身の言葉へ置き換えてもらいます。これを一件ずつ重ねると、代表の頭の中にだけあった「普通」が少しずつチームの判断材料として蓄積されます。「もっと分かってほしい」と思った瞬間こそ、代表自身が持っている知恵を発見して、次の人へ渡せる形にするチャンスです。
「どうしてそこに気づかないの?」が増えてきた主宰者へ
次に同じことを感じたら、相手を直す前に一度だけ、自分へ聞いてみてください。
「私は何を見ていたから、これに気づけた?」
そこに、今まで言葉になっていなかったあなたの判断基準が隠れているかもしれません。
その知恵を次の人へ渡せる形にしていけば、「代表しか分からない」が少しずつ減り、自分で考え、判断できる人が育っていきます。
YELL’sでは、HEROコード診断を通して、一人ひとりの違いを理解しながら、それぞれの強みを使って未来へ進める人とチームづくりを研究しています。

































